あれは私が21歳の夏。梅雨が明けたばかりの、うだるように蒸し暑い夜だった。

バイト先からの帰り道。その日はちょっと残業になって12時を回っていた。とはいえ家までは徒歩で15分ほどだし、ずっと大通りでコンビニも並んでいるので、それまでも終バスを逃した日は歩いて帰っていた。

もちろん夜中に女が一人で歩いていたら、車から声をかけられることもあったけど、無視していればすぐに走り去ってしまうので、わずらわしさはあっても、怖いと感じることはなかった。

だからその夜、「どこまで行くの?」と声をかけられたときも、またかと思っただけで、車のほうを振り返りもせずに歩き続けた。

なのにその車は走り去るどころか、行く手を塞ぐように歩道に乗り上げてきた。

私はビックリしてその時初めて車に目をやった。茶髪やら刈り上げの、いかにも軽そうな男達が3人、車の中から私を見ている。

「遠慮しなくていいんだぜ。送ってやるから乗ってけよ」

その強引さと3人の雰囲気に恐怖と嫌悪感を覚えた私は、車道に出て車の後ろを回り込み、行く手のコンビニ目指して一目散に駆け出した。

後ろを振り返る勇気はなかった。店内に飛び込んで陳列ケースの陰に身を潜めた。

こんなことがなければ、とうに家に着いていたのにと思うと腹が立ってくる。10分以上もそうしていて、もう大丈夫だろうと店の外に出た私は、行く手にさっきの車が止まっているのを見て、立ちすくんでしまった。

後から思えば、この時コンビニの店員に事情を話して警察を呼んでもらえばよかったのだ。

でもその時はあまりに大げさすぎるような気がし、といってもう一度車の横を通る勇気はなく、仕方なく私は数百メートルの距離だけどタクシーに乗って帰ることにして道路際に立った。

その時そんな私の前に、タクシーではなく普通の乗用車が止まった。

私は一瞬身構えた。

「すみません、○○駅にはどう行ったらいいんでしょう?」

緊張が一気に緩んだ。

道を教えた後、その人は「行き先が同じなら送りましょうか」と聞いてきた。

「でも・・・」

「女性の一人歩きは危ないですよ。助手席が恥ずかしければ後ろにどうぞ。タクシーだと思って」

さっきの3人と違って、きちんと背広を着込んだまじめそうな人だった。

地獄に仏とはこのことかという思いで、私は後部座席のドアを開けた。

車は走り出し、3人の乗った車の横を何事もなく走り過ぎた。

助かった・・・そう思った途端、全身から力が抜けた。

歩きと違って、車は早い。

あっという間に家の前まできた。

私は慌てて、「ありがとうございました、ここでいいです」と言った。

けれど車は止まってくれない。聞こえなかったのかと思い、私はもう一度声を張り上げた。

「ちょっと、待って。確かこの辺・・・、ああいたいた」

その人は意味不明の言葉をつぶやきながら、車を路肩に停めた。

同時に車のドアが開き、両側から人が乗り込んできた。

一瞬何が起こったのかわからなかった。

その時助手席にも誰かが乗ってきた。その横顔には見覚えがあった。

さっき声をかけてきた3人のうちの一人だ。

全身の血が音をたてて凍りつく。私はやっとの思いで左右に目をやった。

刈り上げて耳にじゃらじゃらとピアスをつけた男と、茶髪の男。

「ひどいじゃないか。俺たちは無視したくせに、こいつの車ならあっさりと乗るのかよ」

刈り上げの男が耳元で囁いた。

私と4人の男を詰め込んで、車は再び走り出す。

そう、二台の車は最初からグルだったのだ。一台が脅して、一台が助ける。私はその企みにまんまと引っかかってしまった・・・

私を挟み込むように座った二人が、ブラウスのボタンを外し、スカートの中に手を差し入れてくる。

「いや・・・」

渾身の力を込めて叫んだつもりだった。

なのにどうしたことか、自分の耳にも届かないほどのかすれ声しか出ない。

ブラがたくし上げられ、むき出しになった乳房に刈り上げの男がむしゃぶりついてくる。

茶髪の男はパンティの上から、あそこを撫で回している。

おぞましさの余り鳥肌が立った。なのに声ばかりか体にも力が入らず、跳ね除けたくても腕が動かない。

恐怖、絶望、悪寒、後悔、そして諦め・・・

乳首を舐めまわされるに任せたまま、私は車の外に目をやった。

見慣れない風景が窓の外を走っている。

(これからどうなるんだろう・・・どこに連れて行かれるんだろう。どうして、こんなことになっちゃったの・・・?)

その時、車が急に左に曲がり、どこかの建物の中に入った。

(続く)